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ORVIS CFO.Ⅴの修理

7月に5台のリール修理に入庫してきた5台目 ORVIS CFO.Ⅴです。リールフットを固定している部分が半分欠けてしまっています。

 

このリールの修理に関しても最初写真を送付していただいた時点では、直せるものなのかどうか見当が付きませんでした。

 

とりあえず一度送付していただき、詳細に確認して修理の可否、見積もりを行うことにいたしました。

 

このリールフットを固定している部分が半分欠けていたことで、オーナー様は知り合いの鉄工所に依頼して、残りの部分にメネジ加工を行ない、リールフットを固定して使用されているようでしたが、リールフットをうまく固定することが出来なかったとのことでした。

 

到着したリールを確認し、まず、リールフットを外してみました。

3か所ねじ止めされているネジを外す際に、違和感を感じました。

1か所のネジ以外の2か所はオネジが、メネジにうまく噛み込んでるような感じが無く、ネジ自体に遊びがある感じなのです。

 

ここからは私の推測なので、正しいかどうかは判りませんと前置きしておきますが、多分、知り合いの鉄工所の方はフライフィッシングに精通しているかどうかは疑わしく、このORVIS CFO Ⅴに使用されているネジがユニファイネジ(インチネジ)とはご存じなかったのではと推測致します。

 

純正のユニファイネジと新たに使用したメートルネジがゴッチャになって、新しく開けなおしたメネジ(多分メートルネジ)にインチネジをねじ込んだり、反対に純正のメネジにメートルネジをねじ込んだりで、うまくねじ山が噛んでない状態になっていたのではないかと推測しました。

 

純正のネジは#2-56でネジ外径約2.1mmに対してM2.2とかのネジをねじ込んでいたのかもしれません。

 

 

と言うことで、、メネジ自体もつぶれている恐れがあること、オネジはサイズが不明であることを勘案し、新たにM2.6のタップでメネジ加工を行ないました。

オネジに関しては、手持ちのネジのネジ頭を加工してリールフット内の座グリ穴に収まるようにしました。

 

こうして、ネジを閉め込んでみると、リールフットがグラつくことなく、固定できるようになりました。

一件落着かと思いきや、このリールフットを固定している部分が欠けていることで、スプールに巻いたフライラインがこの欠けた部分から飛び出してしまうとのことで、これを何とかして欲しいとの追加依頼を頂きました。

 

写真右の正規品はリールフットを固定している部分がスプール内に入り込み、フライラインが出て行かないような構造になっています。

何とかしてフライラインが出て行かないように純正品に似せたパーツを作製するしかありません。

修理費用を抑えるため、リールフットは現行品を流用するので、リールフットとリールフットを固定している部分に0.5mmの板厚のスペーサーを介在させ、そのスペーサーがスプール内へ入り込んでフライラインの飛び出しを防止するような構成を考え、加工してみることにしました。

欠けてなくなった部分の寸法を確認し、プレートを加工していきます。

ネジ穴の加工部分も目見当で加工されているので、正確に穴位置を計測しプレートに反映していきます。

 

純正品のリールフットを固定している部分はRが付いており、このRによりスプール内の凹部分に綺麗にフィットするんですが、私が加工したプレートはフラット形状なので、スプール内の凹部分に収まるように手加工でヤスリ掛けしながら調整しました。

 

と言うことで、色も形状も異なりますが、リールフットを固定でき、フライラインの飛び出しを防止する要望を兼ね備えた加工が何とかできました。

 

写真にある欠け部とプレートの斜め部分の隙間部には接着剤を充填し補強することとしました。

 

完全に元通りにすることは、私の技術では不可能です。

ですが、要望を満たす最低限の修理は出来たのではないかと考えております。

 

修理は出来るかどうかなんてハッキリ言って判りません。

ましてや数枚の写真で判断することなど無理だと思います。

それでも思い入れのあるリールだからと送付いただくと、何とかして修理して今までの思い出の続きを刻んで欲しいと思い、何とか修理を試みているのです。

 

修理できないから、私のリールを買って!というのは簡単ですが、

大手リールメーカーさえもやりたがらない修理をコツコツやっていくのも小さくても小回りの利くリールメーカーの役目だと信じ、この修理によってRetro Rod&Reelの心意気を感じてもらえると信じて地味な修理も行っています。

 

SDGsの17の目標の中の⑫に作る責任、使う責任というのがあり、3R(ゴミを減らし、再利用し、資源化する)ことを推進することを目指す目標とあります。

多分これは食品ロスの事を意味しているんだとは思いますが、まさにフライリールの世界にも通じるものだと考えています。

ゴミにせず、修理して長く愛着を持って使用する。壊れたら修理する、購入したのなら長く愛着を持って使い続ける。フライの世界はまさにこれです。

 

金太郎あめみたいに大量生産し続けるメーカーの僅か数個の修理をしただけで偉そうなことは言えませんが、

日本人が昔から心に刻み込まれた「もったいない精神」を強く持ったリールメーカーでありたいと思っております。