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木を見て森を見ず

以前に作製したMagnet Releaserです。

作製途中のモノなんですが、左側のMagnetには、突起状のピンがあります。

このピンの先端部分には円周上に切り込みを設けています。

この切り込み部分が左のMagnetに収まると、この切り込み部分にLockが掛かって、取れなくなります。

レバーを押し込むとLockが解除され、Magnet Releaserを取り外すことが可能です。

 

この機構があれば、ネットを落とすこともなく、紛失防止用のコードに必要もない素晴らしい商品になるだろうと考えていました。

 

しかしながら、実際に試作品を使ってみると、Lock機構があることにより、ランディングネットを引っ張ってもLockは解除されず、五十肩に負担を掛けながら背中にあるMagnet ReleaserのLock解除レバーを押し込まないといけないのです。

 

トラウトがかかった状態の中、片手を首の下付近まで伸ばしてLock解除する行為は中々見苦しく、また、ランディングネットを戻す際もピンが他方のマグネットに上手く収まらない場合があり、両手で補助しないといけない場合がありました。

 

このように一見素晴らしいと思われるアイデアであっても、実際の使用シーンを考えた場合にはあまり良くないモノと言うのが存在するわけです。

このようなものはアイデア先行で、そのアイデアありきで商品開発するので、実際に使用シーンに則さないモノにいなってしまいます。

 

これこそが、「木を見て森を見ず」なのです。

幸い、このMagnet Releaserは開発段階で気づいたので、まだよかったし、背中での使用以外では問題なく使用できるのではないかと言うことも確認できました。

 

アイデア先行型の例としては、バンブーフェルールなんかもそんな匂いがします。

金属製のFerruleに変えて、六角形のオス、メスでフェルールを作製しているのですが、加工精度はオスとメス、どちらが難しいと思いますか?

多分メス側の方が精度を出しにくいと思います。

オス側でもカンナ仕上げの状態では、対面幅3面で~30μm程度のバラツキがあると思われます。

メス側も仮に対面幅3面で~30μm程度のバラツキがあったとすると面同士が接触すると思いますか?

線、または点でしか接触していないかもしれません。

何度も抜き差しすれば、摩耗して接触具合も変わってくると容易に想像できます。

竹同士を擦り合せる行為では、簡単に摩耗すると考えられるので、何十年にもわたって使用できるとは考えにくいと思うのです。

 

また、メス側の竹フェルールは強度不足を補強するためにケプラー等の高強度のスレッドをグルグル巻きにしているようです。

メタルフェルールは曲がりにくいですが、フェルール自体は短いです。

バンブーフェルールはメタルフェルールよりもはるかに長いです。長いフェルールは曲がりやすいとは思います。

たとえ高強度のスレッドをグルグル巻きにしたとしても長ければ曲がります。

でも、その曲がりはバンブーブランクの曲がりとは異なる曲がりなのです。

 

メタルフェルールは擦り合わせによりミクロン単位で調整をしていきますので、あの、ニュルッと言う感触でフェルールが入っていくのです。

これこそが高精度の証なのです。

 

バンブーは曲がると言うことからスタートして、破損するから補強して、現在の形状になっているのだと思われますが、加工精度は1桁以上メタルフェルールよりも悪く、うまく接触した状態でロッドが継がれていなければ、キャスティング途中で折れてしまうのではないかと言う恐怖であまり強くキャストすることが出来ません。(これって本末転倒だと思うのです)

 

私が作製するバンブーロッドはメタルフェルールしか使用していませんが、良く曲がります。

それは、良く曲がる素材を使用して少しティップヘビーにして、スローテーパーにしているからです。

 

フェルール部分が長りにくくても、それを加味してテーパー設定すればよい事であって、精度の出ない加工を行なってまでバンブーフェルールを使用しようとは思わないのです。

バンブーフェルールを使用したくない一番の要因はロッド形状です。

メスフェルール部分が大きく膨らんで、カラーの異なるスレッドでグルグル巻きにされたその形状を綺麗だとは思えないのです。

 

メタルフェルールであってもスーパースイスタイプよりもステップダウンタイプの方がフェルール部分のふくらみが小さく、デザイン的にすっきりしている理由で使用しています。

 

バンブーフェルールのロッドがメタルフェルールのロッドよりも明らかに素晴らしいアクションであって、そのアクションはバンブーフェルールでしか再現できないアクションなのであれば、フェルールを再考したいと思うのですが、現状では、他のロッドとの差別化であったり、セールスポイントの一部であったりと、精度を落としてまで取り組むものではないような気がしています。

 

フェルール部分が破損したロッドの修理なども行いますが、バンブーフェルールの修理は出来ません。

グラスロッドの破損の修理も行いますが、バンブーロッドのカーボンフェルールやグラスフェルールの修理も出来ません。

 

ビルダーが居なくなれば修理できなくなるようなロッドは長く愛されるロッドには成り得ないような気がします。

伝統には理由がある。

木を見て森を見ずにはならないようにしたいものです。

特に個人で活動している人は、周りの意見を参考に知る機会がなく、ゆでガエルになる傾向にあると思います。

 

私自身もアイデア先行ではなく、機能から考えたり、信頼性から考えていくようにしていこうと思った次第なのです。